彫刻のある不思議なアートキューブ 公益財団法人菅野美術館 宮城県塩竈市

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小さなカテドラル

塩竈市の太平洋を見渡せる丘陵地に立つ菅野美術館は、ブールデル、グレコ、デスピオ、ムーア、ファッツィーニ、マンズー、マリーニ、ロダンといった作家による8点の彫刻を常設展示するための小さな空間です。この美術館のデザインは、一般の美術館のようにどんな展示にも対応する抽象的な白い箱ではなく、8点の彫刻と展示作品が不可分に結びつき、彫刻と場が一体となったちょうどカテドラルのような空間を創り出すことを目指しています。

建物は、10m×12m×10mのヴォリュームに、彫刻に対応するシャボン玉のような8つの小空間が内容されたような構成となっています。それぞれの小空間は、1平方メートルあたり25個の外側に向けて突起するエンボス加工が施された3.2mm厚の鉄板でつくられており、それぞれの小空間の表面にあるエンボスの突起群とそれに背中会わせに隣接する小空間の突起群とが溶接されることで、境界面をハニカムパネルとし、互いに支え合う独特の構造を成立させています。来館者は、敷地の高低差を結ぶ連続したこれらの小空間を巡りながら、8点の彫刻を体験していくことになります。建物の内外に現れるエンボス模様は、この美術館のデザインにおいて特徴的なもので、必要とされる強度と鉄板の加工性によって決定された構造的な要素でありながら、室内に光と影が生む美しい壁紙のような効果を生み出し、外壁においてはコールテン鋼の味わい深い質感の変化をもたらします。

菅野美術館はその空間そのものが展示作品であるような美術館です。この他に類を見ない建築が、地域の芸術活動を刺激し続けることを願ってやみません。

阿部仁史(建築家)

阿部仁史略歴

阿部仁史(建築家)
1962年  宮城県生まれ
1992年  阿部仁史アトリエ開設
1993年  博士号取得
1994〜2002年  東北工業大学講師・助教授
2002〜2007年  東北大学大学院教授
2007年4月〜  UCLA芸術・建築学部 都市・建築学科学科長
2010年〜  UCLA Paul I.and Hisako Terasaki 日本研究センター所長。

主な受賞に、吉岡賞/BCS賞/日本建築学会賞/BusinessWeek・Architectural Record賞/SIA-GETZ Architecture Prize/日本建築学作品選奨 他

主な作品に、宮城スタジアム、菅野美術館、青葉亭、F-townビル、東北大学百周年記念会館川内萩ホール 他

建築写真

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※「RAINBOW」展(2006)の画像が含まれております。